広東語とは

広東語は、中国語の方言のひとつで、香港・マカオでは公用語の一つに指定されている言語です。香港・マカオの他には、中国広東省、マレーシア、オーストラリア、カナダ、アメリカの華人社会で広く話されており、約8000万人の話者がいると言われています。

広東語は基本的には話し言葉で、書き表す漢字が存在しない場合もあります。したがって広東語が日常的に話されている場所でも書き言葉になると標準語(普通話・國語)を使う場合が多く、混乱することがあるかもしれません。

▲ 雑誌などの広告では、読者に親近感を持って呼びかけるため、書面でも広東語を用いることが多い。ここでの、 「係張」は、本来北京語では「是這張」と書かれるべきであり、広東語独自の表現をあえて使っている。(TVB週刊第443号より)

標準語は「北京官話」という北京語をもとにして官僚のコミュニケーション用に人工的に整備された言語です。中国本土で標準語とされている「普通話」も、台湾で標準語とされている「國語」も、シンガポールで公用語のひとつに指定されている「華語」も、基本的には同じもので、普通、外国人が大学や会社で習う中国語といえばこれを指します。マンダリンと呼ばれることもあります。標準語は、エリート層が全国から集まる北京で洗練されてきたため、古くから話されていた中国語からは特に発音などが大きく変化しています。

一方の広東語は、広東省という中国の南端で話されてきた言語なので、古くからの言葉遣いや発音が多く残っています。そのため、北京語では日本語と似ても似つかない発音の言葉が、広東語では日本語の発音とよく似ているという例を見つけることができます。その意味では、日本人にとっては少しだけなじみやすい言葉かもしれません。

日本語 広東語 北京語
世界 =
せかい
se kai
さいがーい
sai gaai
しーじえ
shi jie
堕落 =
だらく
da raku
どーろく
do lok
どぅおるお
duo luo
高速 =
こうそく
kou soku
ごうちょく
gou tsuk
がおすー
gao su
問題 =
もんだい
mon dai
まんたい
man tai
うぇんてぃ
wen ti

もうひとつ広東語の大きな特徴は漢字の豊富さです。

特に香港の広東語は、中国本土とは物理的にもしくは文化的に少なからず隔たれてきた場所で育まれてきたため、中国本土で使用されているような簡略化された漢字(簡体字)ではなく、旧漢字を使う文化があります。例えば、中国本土では広東省のことは「广东省」と記しますが、香港では「廣東省」と旧漢字(繁体字)を使用して表記します。

そして、話し言葉に立脚した言語ということで、広東語独自の漢字も多く作られました。例えば、広東語では「ない」という意味を表すときは「冇」という文字を使います。

この例では、「ある」という意味の「有」から中身の棒を除くことによって「ない」ことを表現しようとした広東人の想像力のたくましさと遊び心を感じることが出来ましょう。

▲「冇」はないという意味。そのほか「嚟」なども広東語独特の漢字。なお、簡略化した漢字(簡体字)ではなく旧漢字(繁体字)を使うのも香港広東語の特徴。(新Monday Vol.279より)